最高裁判所第三小法廷 昭和56年(さ)4号 判決 1982年9月28日
主文
原略式命令を破棄する。
本件公訴を棄却する。
理由
記録によれば、昭和五六年六月一七日岡山簡易裁判所は、同月一五日付けの被告人に対する道路交通法違反被告事件の公訴提起に基づき、「被告人は、昭和五六年五月二三日午前一〇時二三分ころ、道路標識等によりその最高速度が三〇キロメートル毎時と指定されている岡山県倉敷市三田三三五番地付近道路において、右最高速度を一七キロメートルこえて四七キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転して進行したものである。」旨の事実を認定し、道路交通法二二条一項、四条一項、一一八条一項二号、同法施行令一条の二第一項、刑法一八条、罰金等臨時措置法二条、刑訴法三四八条を適用して、「被告人を罰金一万二〇〇〇円に処する。これを完納することができないときは金二〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。第一項の金額を仮りに納付することを命ずる。」との略式命令を発付し、この略式命令は、正式裁判請求期間の経過により、昭和五六年七月一五日確定したこと、被告人の右速度違反の行為は、道路交通法一二五条一項にいう「反則行為」に該当するが、同記録中の交通事件原票には、被告人は昭和五六年二月一〇日六〇日間(その後三〇日間に短縮)の免許の効力停止処分を受けたもので、過去一年以内の行政処分が存し、このことを免許証によつて碓認した旨の記載があり、原裁判記録中にはこれに反する資料はなかつたことが認められる。
しかしながら、当審の事実取調の結果によれば、被告人が免許の効力停止処分を受けたのが昭和五六年二月二〇日である旨の免許証の記載は昭和五五年二月二〇日の誤記であり、被告人には道路交通法一二五条二項各号に掲げる事由は存せず、被告人は同法第九章にいう「反則者」に該当するものと認められる。したがつて、被告人に対しては、同法一三〇条、一二七条一項、一二八条一項により、岡山県警察本部長が反則金の納付を通告し、かつ、所定の納付期間が経過した後でなければ公訴を提起することができないのであるから、公訴提起を受けた岡山簡易裁判所としては、刑訴法四六三条一項に従い、事件を通常の手続に移したうえ、同法三三八条四号により公訴棄却の判決をすべきであつたにもかかわらず、右公訴事実につき有罪を認定して略式命令を発付したものであつて、右略式命令は法令に違反していることが明らかである。
よつて、本件非常上告は理由があり、しかも原略式命令は被告人のため不利益であるから、刑訴法四五八条一号但書により、右略式命令を破棄し、同法三三八条四号により本件公訴を棄却することとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(伊藤正己 横井大三 寺田治郎 木戸口久治)